文化庁著作権課との話し合いについて

1999年6月22日
障害者放送協議会

1999年6月18日、障害者放送協議会(障害関係団体16団体により1998年に設立)は、著作権法改正と障害者の情報アクセス権の問題について、文化庁著作権課長と話し合いを行い、併せて文部大臣宛に、5項目からなる要望書を提出しました。

話し合いの中では、著作権課長より概ね下記のような回答を口頭でいただきました。

以下に話し合いのまとめを添付します。

障害者放送協議会 文化庁著作権課長との話し合い

(障害者放送協議会事務局まとめ)

日時:1999年6月18日 18:00より
場所:文化庁特別会議室(文部省6階)

参加者(順不同、敬称略):

<文化庁>
吉田大輔著作権課長、
永山課長補佐、
片山マルチメディア著作権室長、
越田係長(マルチメディア著作権室)、
川瀬調査官

<障害者放送協議会>
河村宏(日本障害者リハビリテーション協会企画情報部長)
高岡正(全日本難聴者・中途失聴者団体連合会理事長
高橋秀治(日本障害者協議会情報通信委員長)
牧田克輔(日本盲人会連合情報部長)
川畑順洋(日本盲人会連合)
小谷野奎一郎(日本盲人社会福祉施設協議会常務理事)
太田晴康(全国要約筆記問題研究会副会長)、
藤澤敏孝(全国社会就労センター協議会都道府県推薦協議員)
中博一(聴力障害者情報文化センター企画・制作課課長補佐)
井上芳郎 (LD(学習障害)親の会「けやき」)
原田潔(日本障害者リハビリテーション協会)

話し合いの内容(まとめ)

河村:
要望書を文部大臣宛に提出する。要望項目は5項目であるが、各項目についてご説明したい。

要望1について(要望についての説明)

高岡:
テレビは最大の情報源であるが、一部字幕放送が実施されているものの、ニュースには字幕がない。民放には2%しか字幕が付いていない。欧米では70%なのでこれにはほど遠い。字幕の提供を利用者側が独自にやろうとすると、作業の都度許諾を受けなければならない。
事前に予定されているものならばいいが、突発的な災害など、最も緊急性の高い情報は、これでは間に合わない。
テレビ局等では、字幕制作について、著作権等の主張をしないでいただきたい。音声が文字になったからといって、著作権者の利益を損ねるとは思えない。公共の福祉という理念から言えば、放送法、著作権法の理念にもかなう。点字については著作権法第37条による規定があるので、字幕についても広い観点から検討してほしい。

要望2について

牧田:
昨年7月30日に著作権審議会マルチメディア小委員会複製検討班で、日本盲人会連合から同様の要望をした経緯があるが、今回の改正法で、それらの要望がどう反映されたのか聞きたい。特に、最近はパソコンによる点訳が行われている。点字図書館が、少ない資源の効率化を図るため、ネットワークで結ばれていて、重複した点字図書製作をせずに済むようにし、利用者の便宜を図っている。それが著作権者の権利を侵害するとは思えない。現在の点訳行為の中で、60%以上がパソコンによるものである。これは著作権法第37条による「複製」という範疇に入るのか。入るのであれば、それを法律の中に明文化して欲しい。
音声解説についてだが、盲人も、テレビを見て、聞いている。画面を見ずに音声だけでは、理解できないことがあるので、ニュース等を含めて、音声解説を付けてほしい。

小谷野:
日本盲人社会福祉施設協議会では、加盟の半分が点字図書館である。技術革新により、情報のあり方が変わっているが、実際に新聞等などの情報を、利用者がすぐ得られるようにはなっていない。パソコンの利用により、事態が改善されると思うので、考慮いただきたい。

河村:
大学、公共図書館でも、許諾を得ながら録音図書製作を行っている。ここで挙げられる声としては、許諾を得るのに時間がかかるということである。専門書など、すぐ読みたいものが読めず、機会を逸してしまうこともある。そこで、37条を公共図書館にも広げてほしいという要望は古くからあった。

高橋:
全日本ろうあ連盟からは、手話付き、字幕付きのビデオについても、37条に準じて許諾を不要にしてほしいという要望がある。
視覚障害者文化振興協会では、新聞朗読をしているが、署名入り、社外記者の記事には許諾が必要であり、朗読ができず、晴眼者と格差がでてしまう。規制をゆるめて欲しいという要望がある。

要望3、4について

河村:
録音図書については、欧米では、身体障害、学習障害など、広く利用対象者を規定しているのが一般的である。日本の現行法では、利用対象の範囲が狭い。これは、「障害」ということの社会一般の認知のありかたにも関わっている。また、技術的な可能性が広がっても、法制度によって、情報保障が進まないという現状がある。

井上:
LDについては、日本では社会的に認知されていない。文部省の協力者会議中間報告において、始めて公的に認識を得たところである。
全国の親の会があり、設立十年になるが、歴史が短く、著作権関係の問題についてはまだ検討はされていないが、学校教育の場に於いては適切な教育を受けさせてほしいと要望してきた。だが学校現場では先生方になかなか理解を得られない。ある子供は、視力があるのに、文字を読めないという困難があり、特にひらがなが読みにくい。また縦書きと横書きを混同してしまうなど。外国でも、アルファベットを取り違えてしまうなどが起こる。こういったことはなかなか理解されないが、録音教材等の利用対象を、聴覚障害者だけでなく、LD者にも広げてほしい。文部省のLDの調査研究協力者会議の最終報告が出されると伺っているが、これに呼応して今後文化庁におかれてもLDの問題について明記してほしい。

高橋:
全日本手をつなぐ育成会では、知的障害者にどう情報を伝えるかということを話し合っているが、何より分かりやすく伝えることが必要であり、分かりやすくリライトさせていただきたいという要望が出ている。

要望1 4まとめ

河村:
全体的にいうと、情報へのアクセスを保障する手だてを、著作権法でも明記していただきたい、ということにつきる。
82年に開催された、ユネスコとWIPO(世界知的所有権機関)共催の作業部会以来、著作権に関する判断は基本的に変わっていない。点字、録音図書では制限がなされているのに、なぜ手話字幕には制限がなされないのか説得力がない。当事者が不在の一般的合意だったのではないか。
しかしながら、その後国連障害者の十年の取り組みがあり、「障害者の機会均等化に関する基準規則」も出され、国際的状況は変わっている。
日本は国際的にもリーダーシップをとることが期待されている。これまでの国際的な状況ということにとらわれず、文化庁として、どのように今後取り組まれるのかということを問いたい。

文化庁回答

吉田課長:
総括的に基本的姿勢を述べ、そのあと要望に個別に答えたい。
これまでも障害者団体からは要望はあった。
これらの要望については真剣に受け止めている。
著作権者の権利、情報アクセス権の保障はともに重要であるが、そのバランスをどう取るのか、具体的な方策がまだであるというのが現状である。
現行法は、昭和45年のものであるが、その後さまざまな環境の変化があるので、それを考慮に入れ、2つの権利のあいだでどうバランスを取るのか検討していきたい。
昨年行われた日盲連のヒアリングの内容は、今回の法改正には反映されなかったが、今後の著作権審議会で取りあげていきたい。
また、著作権審議会では、あらためて聴覚障害者の意見も聞き、審議会のレポートをまとめていきたい。
点字・録音図書と手話・字幕の関係については、点字・録音図書は複製と考える一方、手話・字幕については翻案権との関係が出てくる場合がある。翻案されて、著作者が意図した形と変わってくると、翻案権、もしくは同一性保持権の問題がでてきてしまう。
国際条約については、その後検討された事実はない。この問題について国際的に議論されることはあまりないが、国内的には検討されうる余地はあるので、最近の環境の変化、各位の意見を参考にし、検討していきたい。
片山室長:インターネットを用いれば、さまざまな情報にアクセスできる利便性がある一方、一般論として、著作権利侵害が行われ得るという懸念もある。複製検討班において、新しい技術を用いた場合と著作権との関係について検討しているところであり、それらの検討の中で、今後対応していきたい。

要望5について(一問一答)

河村:
5つ目の要望として、審議会に、当事者を含めてほしい。協議の場を設けてほしいと要望したい。

吉田課長:
審議会は、著作権法に関わる広範な問題を扱っている。利用者すべてを委員にすることはできず、障害当事者を含めるのは難しい。ただ、審議会として、障害者の意見を十分聞いていくよう配慮していきたい。聴覚障害者の意見も聞いていきたい。
私どものほうでも、法改正も含めて考えていくとすれば、障害者が具体的にどういう不便を感じているのか知りたいし、権利制限をするのであれば、具体的な規定が必要であるので、今後も協議していきたい。

河村:
委員の構成の概略を教えてほしい。

川瀬調査官:
著作権審議会令で「委員20人以内」と定められている。研究者学識経験者(7〜8名)、権利者団体代表、主要な利用者団体、例えば放送、レコード、出版業界代表などである。

河村:
放送やレコードなどでなく、一般の利用者代表、障害者も含めた情報のアクセスという観点からの代表は出ていないのか。

吉田課長:
放送業界等は、大量に利用するという立場である。一般の享受者は、ある意味で学識経験者がそれにあたる。どの団体にも属さず中立公正な立場である。

藤澤:
作業部会の構成はどうであるか。

川瀬調査官:
常設のものとそうでないものとあるが、特定の事項について審議するので、その関係の学識経験者などを臨時委員や専門委員として任命する。事柄によって構成は違う。

藤澤:
審議会の小委員会ぐらいのレベルで、障害者の問題に関する協議の場が設けられないか。

吉田課長:
障害者に関する問題については、現在ステップを踏んで検討を進めているところである。審議会でも取り上げて十分検討していきたいと考えている。

その他の討議内容(自由討議)

牧田:
著作権法と情報アクセスについては、既に著作権審議会で討議されているのか。また、そこでは著作権法の改正についても、今後検討していくのか。

吉田課長:
審議会では、障害者の情報アクセスの問題について既に討議されている。ヒアリングをして問題点の抽出を行っているところである。秋頃にはその作業を終えたい。だが抽出された問題点の検討については、難しいものも容易なものもある。具体的にいつまでとは言えないが、テンポアップして進めていきたい。
今の時点では、法を見直すとは明言できないが、将来的には、検討結果によって、法改正も含めて対処していきたいと考えている。

河村:
点字については、同一性保持がされていると、国際的には受け止められているが、なぜ音声を手話・字幕にする場合、そうは捕らえられないのか。文字を点字や録音図書にする場合、図を解説するなど、翻案がありうるが、手話や字幕でも条件は同じであり、いずれも障害をもつ人にとって特に必要なものなのではないか。

吉田課長:
点字、録音図書の場合、文字の部分は点字、録音に1対1で対応していると判断できる。図書に含まれる挿し絵を解説することは、その挿し絵や図書の文自体を改変することではないので、著作権法の判断外と解釈される。
音声解説については、映像自体の改変にはあたらないので、ある意味では、これも著作権の問題から外れたものと考えられる。
問題になるのは、1対1対応でなく、改変、一部カットなど、内容そのものに手を加えるということである。もともと表現されたものと違ってくると、単純な複製とは捕らえがたく、著作権者も気にするということである。
37条は、複製権を規定している。1対1対応が複製であるので、そのかぎりでは、同一性が保持されている。だが、37条が、同一性保持権を制限しているということではない。変えていないのだから、問題とならないのである。
複製権の制限という考えにこだわらず、翻案権の制限という形で主張されたほうが、私どもでは受けとめやすい面がある。
これらの要望を37条の解釈によって解決するのも方法であるが、法律は改正されていくものなので、37条を拡大する、あるいは発展させるという方法もある。
一方、著作権利者の権利も重要である。どういう範囲で権利制限を行うのかということを整理すれば、建設的な話し合いになっていくと思う。

中:
字幕については、音を完全に字幕化することは不可能である。著作権審議会第7小委員会では、「聴力障害者向けの字幕制作にあたって行われる要約は『やむを得ない改変』とは考えられない」との見解を示しているが、しかしこれに代わる有効な手段がないのが実状である。1対1対応ではない字幕は37条の適用は無理とのことであるが、これに代わる有効な手段がない現状においては、もっと柔軟な対応を検討していただきたい。

高岡:
結局、聴覚障害者の情報アクセス権は保障されないということか。

吉田課長:
そうではない。またこの場で最終的な結論を出すことはできない。今後審議会で、聴覚障害者にも意見を聞いていく。また、著作権者にも意見は聞いていく。そして検討して、問題があるとなれば、改正の方向で進めていきたい。
また、著作権法の中だけでは捕らえられない問題もある。例えば放送局側の対応をどうするか等。
権利制限ということになるといくつかの方法が考えられる。例えば37条のようにまったく権利制限してしまうもの。許諾は不要だが補償金のような形で処理するという方法もある。そのようなバリエーションも考えて、考慮していきたい。

太田:
障害者の情報アクセスということに絞り込んだ、継続的な協議の場を組織いただけないか。
権利者側との話し合いは以前から行われてはいるが、海賊版への懸念、権利を剥奪されるという懸念などの意見が強い。だが、障害者の、情報にアクセスできないという権利剥奪はどうなるのか、という思いがある。米英、北欧の著作権法では、障害者の情報アクセスについて明文化されている。著作権者とのバランスということより、情報アクセス権ということに絞った話し合いの場を持ってほしいと思っている。

吉田課長:
著作権者は話し合いに入れないということか。

太田:
具体的な調整の前に、知る権利という、基本的な権利についての検討や、情報アクセス権ということをよく研究してはどうかということである。先日のシンポジウムのような場を、具体的には考えている。

河村:
最終的には権利者側の合意は必要である。著作権そのものはもちろん尊重する。ただ、著作権の尊重と情報アクセス権が調和していなければ、法が尊重できない。最終的には権利者も含め、情報アクセス権について考えていくものであればいいと思う。

吉田課長:
検討したい。

高岡:
情報アクセス権は、基本的人権として認めているのか。

河村:
講演者が、手話通訳を拒否する例がある。いまの著作権法では、同一性保持権、著作権などを根拠に、手話などを拒否することができるのか聞きたい。

吉田課長:
障害者が情報にアクセスすることは、重要な権利だと思っている。
手話を拒否するという件だが、講演者の話の内容は、1つの著作物である。これを手話で伝達するというのは、複製にも、口述にも該当しないようであるし、どう解釈すればよいのか即答できない。

高岡:
要約筆記は、声色までは分からない。音声を文字にするというのは、同一なものではありえない。著作権者が、高い観点から、それを認識してほしい。障害者は、情報にアクセスできないから、講演を聴かなくてよろしいというのは、人間そのものを否定されたような気持ちになる。これから、高齢化社会になると、身近に難聴などの問題はおこる。早急に解決してほしい。

河村:
現在の著作権法を根拠に、手話通訳を拒否することができるのかどうか、後ほどでいいが、ご教示願いたい。

吉田課長:
要望書の項目1にも手話について述べられているが、著作権法における手話の位置づけということで、後日回答したい。

高岡:
著作権者側が、著作物を出すと同時に自ら録音テープや字幕付きビデオなどを出せれば理想的である。それを支援していく仕組みはできないか。
審議会には障害者を含めるのは難しいとのことだが、障害者基本法には、当事者自らが政策立案に加わるとある。障害者の生活に直接関わる問題なので、考慮してほしい。

吉田課長:
放送の際に、製作の始めに字幕や手話を入れるという許諾をとれば、きちんと処理できるし、最もスムーズである。これを支援する仕組みというのは、文化庁だけではできないが、関係省庁と協議し進めていきたい。

河村:
要望に対する回答はいつごろとなるか。

吉田課長:
回答内容にもよると思う。手話の位置づけということについては、できるだけ近々にしたい。要望事項には、深い内容もあり、審議会に諮ってというものもあるので、相当時間をいただくこととなる。

河村:
個々の点に関するご回答でも構わないので、早めにいただければありがたい。また、このような話し合いをしたいというのでも構わない。今後も連絡を保ちたい。当方としてもできるかぎり情報提供していきたい。

以上


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