平成11年6月18日
文部大臣
有馬朗人 殿
障害者放送協議会
代表 村谷昌弘
1988年の著作権法大改正の際、障害をもつ人の情報利用について配慮するようにとの付帯決議が出されましたが、その後今日まで、必ずしも十分な取り組みがなされたとは言いがたいものがあります。
今国会で、「著作権法の一部を改正する法律案」が提出されるにあたり、本協議会では、去る6月4日、「障害者の情報アクセスと著作権法改正を考えるシンポジウム」を、文教委員諸先生方のご出席のもと衆議院議員会館にて開催し、各障害者団体による要望事項をとりまとめました。
つきましては、ここに以下の点を要望いたします。
1. 手話および聴覚障害者のための字幕を、著作権法第37条に準じて、公表された著作物に付加することを認めてください。これにより、手話および字幕による、同時通訳を含む情報保障が、許諾等を経ず円滑に行えるようにしてください。
2. 点字について、著作権法第37条で認められている事柄を、今回の改正法においても十分に保証してください。またこれに準じて、映像による著作物に視覚障害者のための音声解説を付加することを認めてください。さらに第37条が、インターネットなど新しい技術を用いた通信・放送の場にも適用されるようにしてください。
3. 録音図書を含む音訳物について、現在利用対象者として認められている視覚障害者だけでなく、音声情報を必要とするLD(学習障害)者や高齢者などにも、利用対象の範囲を広げてください。
4. インターネット等を利用した、新しいマルチメディア技術の普及の中で、情報の翻案、要約、書き直し(rewrite)等を必要とする、知的障害者やLD(学習障害)者などに対して、情報アクセスの権利を保証してください。
5. 国および文化庁におかれましては、著作権審議会の委員に、視覚障害・聴覚障害など各分野の障害当事者団体代表を含めるとともに、障害者の情報アクセスと著作権について、障害者団体と継続的に協議する場を設けてください。
以上。
平成11年6月18日
社会福祉法人 日本盲人会連合
障害者を取り巻く社会環境には物理的な障壁、制度的な障壁、情報の障壁、心の障壁の4つの壁があるといわれます。とりわけ、情報障害といわれる視力のまったくない者にとって日々刻々と、視覚的に流れる情報をどう取り込むか、つまり、情報の壁をどう打ち破るか大きな課題です。
その意味で現行著作権法で著作者の権利を制限する規定第37条が設けられていることは、知る権利を保障するうえからも当然の条項だと認識しています。
平成10年7月30日に著作権審議会マルチメディア小委員会複製検討班で意見を述べたところでありますが、改めて21世紀がバリアフリーやノーマライゼーションの理念が行き渡った社会であることを願い、次の2点を強く要望します。
私たちは著作権法第37条1項の「複製」という言葉の概念を広く捉えています。
パソコン点訳は資料に見られる通り、年間に制作される点字図書の62%を占め、この割合は年々高くなっています。また推計ですが、点訳ボランティアの半数約2,500人はパソコン点訳者です。
視力がなく墨字を読めない人用に著作物を点字で複製することについては、その手段が紙でなくパソコンに代表される電子機器を使用した著作物のデジタル化であっても、それが時代の変化に応じた適切な、合理的な伝達手段(流通手段)であることを考えれば、著作権法第37条1項の権利制限規定が適用されることは当然であり、このことを強く要望します。
パソコン点訳とは、紙に直接点字の入力を行い点字資料の作成を行う方法ではなく、著作物の内容を一旦、データとして電子機器に入力したうえで点字を出力するという方法です。その過程で一旦データを入力するという行為がともない、一定期間のデータの保存も可能であることから、著作権法第37条1項をそのまま適用することについての異論も出されていると聞きますが、専ら点字作成を目的とするのであれば、作成過程においてのデジタルデータが蓄積されることはあっても、その多くが視力を失ったため墨字を読めない人のための点字データとして入力されている現状から考えても、晴眼者が利用することによる権利侵害は起こらないもの考えられます。
ついては、すべての人々に情報アクセスの機会を均等に保障する立場からも、点字作成を目的とする厳密な条件の下で、点字資料を作成する際に著作物の内容を点字データとして電子機器に蓄積する行為に対して権利制限規定の適用を要望します
通信ネットワークを利用した視覚障害者情報提供施設間の協力は、少ない点字情報資源の効率的な相互利用を行うことと、少ない点訳ボランティアを有効に活用するために欠かせない条件であります。また、この視覚障害者情報提供施設間協力において通信ネットワークを利用した点字資料提供体制を整えることは、情報化社会の中で利用者への公共的な資料提供機能を十分に果たしていくことが求められている私たちにとって、必要不可欠な要素となってきており、またネットワーク化がこれだけ浸透してきている現状で、しかも点字の複製物を通信ネットワークを利用して提供することが、すぐに権利者の不利益につながるものとは思えません。
したがって、視覚障害者情報提供施設間における通信ネットワークを利用した著作物(点字)の提供について、その際に行われる複製行為、さらに著作物を送信する行為に対しても権利制限規定が適用されるよう要望いたします。
1. 全国の視覚障害者情報提供施設(点字図書館)の年間製作点訳図書の総数
6,286タイトル(27,063冊)
平成9年度分、全視情協加盟84館+日盲連の回答)
2. 内、パソコン点訳図書数
3,877タイトル(18,053冊)
3. 点訳ボランティアの総数
4,712人
4. 内、パソコン点訳ボランティア数
不明
点訳図書総数の割合から推量するしかない。
日本障害者協議会情報通信委員会
当委員会に所属する加盟団体のうち、下記3団体はそれぞれ独自に情報問題と取り組んでいます。著作権に関して、次のような意見・要望が寄せられましたので、よろしくお取り計らい願います。
聴覚障害者の著作権法への要望
著作権法第20条を改正し、盲人のための点字による複製権の規定と同様、聴覚障害者の為の手話つき、字幕つきビデオ複製権の規定を新設するよう求める。
著作権に関する要望(意見)
視覚障害者向け視覚代替音訳のための著作物(新聞・雑誌・書籍他)利用に関する著作権について
1. 現行の著作権法では、視覚障害者への情報保障については国が認める視覚障害者情報提供施設(点字図書館)が著作物を音訳し、テープ等で提供することは権利制限として認められているが、それ以外の団体・施設の場合、非営利の社会福祉法人であっても許されない。また、通信や放送のような新しいメディアも定義されていないため、かならず著作権が行使される。
→ 各著作権者と個別対応・処理する必要があるため、情報の提供に時間がかかり、ラジオの即時性という利点が脅かされる。
各著作権者の許諾をとっても、利用できない著作物が発生する。
(例:新聞社の場合) 社外記者の執筆物、在外通信社からの情報、投稿など読めない記事がたくさんある。
→ 新聞を通常利用している晴眼者は執筆者に関わらず全ての記事を利用できるが、視覚障害者には読めないばかりか、その存在も知らされない情報が発生する。
いずれの場合においても、障害者と健常者の間に情報の格差がでることが最大の問題である。
大きな原因のひとつは法制上の問題である。解決には次の方法が考えられる。
さらに、新聞・雑誌等のメディアをはじめ、社会の情報補償への意識を高める啓発も必要である。
著作権に関する要望事項
知的障害のある人たちが、情報を理解または利用するには「わかりやすい」ということが大前提になります。よって以下のことを要望いたします。
・新聞や雑誌の記事、あるいは小説などをふくむあらゆる出版物、その他の情報提供媒体・芸術作品等について、それらを知的障害者への情報提供として使用する際の著作権を自由にしていただきたい。
・新聞や雑誌の記事、あるいは小説などをふくむあらゆる出版物、その他の情報提供媒体・芸術作品等について、記事等の転載や、語句・文脈・内容をリライトしたり短縮などの変更、あるいは解説等を加えることを認めていただきたい。