著作権分科会 法制問題小委員会(第6回)
意見発表(2007年7月19日)

意見発表者 井上 芳郎(障害者放送協議会著作権委員会委員長/全国LD親の会)
高岡 正 (全日本難聴者・中途失聴者団体連合会理事長)
佐藤 聖一(日本図書館協会障害者サービス委員会委員長)
議事録・配付資料(文部科学省サイト) http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/013/07072002.htm

意見書

  1. 障害の有無にかかわらず、全ての人が同等に情報にアクセスし、また文化的作品へアクセスし享受できることが基本であり、本来目指すべき社会の在り方である。
  2. 情報や著作物が全ての人にとって「アクセシブル」な形式で、はじめから提供されているのが理想である。
  3. 残念ながら、現状では情報や著作物の多くが、障害者にとって「アクセスできない」、または「アクセスしにくい」形式でしか提供されていない。
  4. 我が国でも批准準備中の国連の障害者権利条約では、障害者の情報アクセス確保、文化的作品へのアクセス享受等のための条件整備や、知的財産権を保護する法令が障害者にとって障壁とならないよう措置することを義務づけている。
  5. 障害者の情報保障の観点で、我が国の著作権法を欧米や一部のアジア諸国等と比較した場合、障害者の実情に合わない点や、障害者の範囲が限定的である点が指摘できる。
  6. 障害者の情報保障促進の観点から著作権法の見直しがされてきたが、以下に示すようにまだ不十分であり、また社会情勢の変化、障害に関する知見の深まり、技術の進展等に伴い新たな課題も生じている。著作権法の速やかな改正が必要である。
    • (1) 現行著作権法で想定されているのは、基本的には視覚障害と聴覚障害のみで、例えば学習障害(LD)に含まれる障害概念である「ディスレクシア」等の、通常の印刷物の読み取りに困難を持つ人たちに対する配慮がない。
    • (2) 著作物を複製することで視覚・聴覚障害者が利用できる形式に変換する必要があるが、現行著作権法の「私的複製」の範囲や解釈が限定的で、障害者の実情に合わないため著作物の円滑な利用が妨げられている。
    • (3) 情報コミュニケーション技術(ICT)を背景とする支援技術の進展で情報保障の可能性が広がっているが、現行著作権法の不備がもとで道が閉ざされている。
    • (4) 欧米や一部のアジア諸国では、すでに公共図書館や大学・学校図書館で広く障害者への著作権法上の配慮がなされているが、我が国では不十分である。
    • (5) 緊急時、災害時等の障害者への情報保障については喫緊の課題である。例えば災害時のテレビ放送への字幕・手話の付与、発達障害・知的障害者等への字幕の翻案など、著作権法上の配慮は不十分である。
    • (6) 本年4月より本格的に開始された「特別支援教育」の場面での情報保障も不十分である。例えば視覚障害向けの録音図書や弱視向けの拡大教科書等の利用範囲拡大に係る著作権法上の配慮が必要である。そして特にDAISYといったデジタル録音図書は、今後事実上の国際標準規格ともなりうるシステムでもあり、著作権法上の配慮が必要である。

【参考】「障害のある人の権利に関する条約」ならびに「障害のある人の権利に関する条約の選択議定書」川島聡・長瀬修 仮訳(2007年3月29日付訳)
http://www.normanet.ne.jp/~jdf/shiryo/convention/index.html
http://www.normanet.ne.jp/~jdf/shiryo/convention/29March2007CRPDtranslation.html

第九条 アクセシビリティ
2.締約国は、また、次のことのための適切な措置をとる。
(f)情報への障害のある人のアクセスを確保するため、障害のある人に対する他の適切な
     形態の援助及び支援を促進すること。

第三十条 文化的な生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加
1.締約国は、障害のある人が他の者との平等を基礎として文化的な生活に参加する権利を
    認め、また、次のことを確保するためのすべての適切な措置をとる。
(a)障害のある人が、アクセシブルな形式を通じて、文化的作品へのアクセスを享受すること。
(b)障害のある人が、アクセシブルな形式を通じて、テレビ番組、映画、演劇その他の文化的な
     活動へのアクセスを享受すること。
3.締約国は、国際法に従い、知的財産権を保護する法令が文化的作品への障害のある人の
    アクセスを妨げる不合理な又は差別的な障壁とならないことを確保するためのすべての
	適切な行動をとる。

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