障害者放送協議会 著作権委員会 文化庁著作権課との意見交換 要旨(2008年8月22日)
日時:
|
2008年8月22日(金)14時〜15時30分
|
場所:
|
文部科学省 東館5階1会議室
|
参加者
|
文末参照
|
- 文化審議会著作権分科会法制問題小委員会の平成19年度「中間まとめ」で示された、障害者福祉関係の権利制限の見直し事項に関しては、具体的な法改正を行うことで小委員会での結論が出ているものと認識している。
したがって、最低限上記中間まとめにおいて結論の出ている事項については、一刻も早く具体的な法改正の作業に着手し、法改正の早期実現が求められると考えるが、いかがか。
- 著作権課:
- 下記、3.と併せて回答
-
この6月に成立した「教科用特定図書の普及促進法」にあわせて、著作権法第三十三条の二が改正されることとなったが、施行に向けた作業の進捗状況はいかがか。
-
教科書課:
- 「普及促進法」は議員立法で制定され、6月18日に公布された。公布から3か月以内の9月17日までに施行される。現在は、施行期日を定める手続きをしているほか、データの提供をどのように行うかなど細かい規定に関する検討を、拡大教科書普及推進会議の中で行っている。
- 著作権課:
- 改正著作権法については、普及促進法の整備に伴い、自動的に適用されるようになる。
-
第三十三条の二以外の事項について、法改正に向けた作業の進捗状況はいかがか。法改正に向けて障害となっている部分があるとすれば、具体的にどのような点か。
- 著作権課:
- 文化審議会においては、昨年度の中間まとめ以降、障害者福祉関係について審議されておらず、状況は変わっていない。ただ、特にトラブルがあって審議が進んでいないわけではない。法改正は、複数の課題をまとめた形で行われるが、知財推進計画などで、検討すべき他の課題が挙げられているため、それらの検討がまとまるのを待っている状態である。これらに検討を加えたのち、障害者福祉関係の法改正とともに、来年の通常国会に提案できればよいと考えている。
- 放送協議会:
- 著作権分科会では、障害者福祉関係は大筋の結論が出ており、緊急性があるので、切り離してでも、先んじて法改正を行うべきとの意見があったようであるが。
-
著作権課:
- 機会をとらえてできる限りそうしたいと思っている。「普及促進法」は、当初は視覚障害のみが対象であったが、政府与党からも働きかけて、他の障害も含めてもらった。
-
放送協議会:
- 障害者福祉関係では、法改正の障害となっている部分はないと理解してよいか。
- 著作権課:
- ほぼないと言えるのではないか。昨年の意見交換でも申しあげたとおり、聴覚障害関係の映像の字幕付与については、映像ではなく字幕のみの複製でできないかとの意見、また流出防止の方策が必要であるとの意見はあった。この点に関する協議は進んでいないが、周辺環境は進んできている。
- 放送協議会:
- 現在、聴覚障害者は、決められた時間(リアルタイム)に、通常の画面以外に、字幕画面、手話画面を見なければならず、これでは理解が困難である。特に学生などには、特別な保障措置や配慮が必要ではないか。例えば司法試験では、点字や拡大読書機で受験する視覚障害者に、時間を延長しての受験が認められている。
流出防止については、情報提供施設ではきちんとした利用者限定ができる状況にある。これまで、聞こえる人に流出し、不正に使われた事例はない。また、CSの場合も、利用者の限定は非常に固い。情報提供施設の予算には税金が使われているが、著作権処理の費用を負担しているほかに、コピーガードのような高価なものを導入することも求められるとすれば、負担が大きい。
- 著作権課:
- 税金の負担を減らすために著作権利者の負担を増やすという議論だとすれば、それは、皆で負担していたものを一部の人間の負担に転嫁するということ。それはいかがなものかと思う。また、皆がやっていることをできるように、そこは対応しようとしているが、皆がお金を払っているものを障害者は払わなくていいようにということだと、著作権の問題とは別の話になってしまう。そこはご理解いただきたい。
- 放送協議会:
- 私たちの要望は、普通の人が受けられる情報を平等に受けられるようにしてほしいということである。すべての著作物がバリアフリーでない以上、第三者が情報保障のために複製などを行う必要が出てくるが、そのときに、著作権法が妨げにならないようにということである。障害者は、著作物を購入しても、それを享受することができない。障害者だからすべてを無料にしてほしいということではない。
- 著作権課:
- その点は心に留めている。
- 放送協議会:
- アクセシブルな出版物が少ない中、情報保障を行ううえで、公共図書館は大きな資源となる。すべての国民が利用できる可能性があるのが図書館である。公衆送信も含め、広く認めてほしい。
- 著作権課:
- 中間まとめに基づき、なるべく広く行えるようにしたい。公衆送信については、すべての図書館が個別にやっても仕方がないし、流出防止策も取りにくくなるので、ポータルサイトを作るのか、いくつか考え方はあるが、実質の作業は幅広く行えるよう考えたい。
- 放送協議会:
- 次回の法改正は、いつごろになるか。
- 著作権課:
- 知財推進計画2008で課題となった検討事項もあるので、来年の通常国会には改正案が出せるようにしたい。
-
平成19年度「中間まとめ」に相前後して、国連障害者権利条約に日本政府も署名し、この5月には発効している。この権利条約で謳われているように、知的財産を保護する法律が、障害者の情報保障のうえで障壁とならないよう、現行著作権法の抜本的な見直しが求められると考えるが、いかがか。
- 著作権課:
- どこまで著作権法を改正すれば権利条約に批准できるのか、まだ分からない。ただ、条約の批准のためにここまで改正するとか、条約が批准できるからここまでしかやらなくていいということではなく、必要だとの要望があるところは、改正に取り組むつもりである。
- 放送協議会:
- 条約は、国際的なガイドラインであり、いわば、国際社会から見て「恥ずかしくない」最低ラインであると捉えたい。現状ではこのラインすら満たしていないと考えているので、この条約の趣旨を最大限生かしやっていただきたい。
- 著作権課:
- 外務省と相談しながらやっていきたい。
- この6月に公表された「知的財産推進計画2008」では、包括的な権利制限規定(フェアユース)の導入が検討されていると聞いている。これは商用目的のものと併せて、障害者の情報保障や学習権保障等の目的にこそ、先ず適用されるべきものと考える。このような観点からの、現行著作権法の抜本的な見直し作業の予定と見通しについてはいかがか。
- 著作権課:
- フェアユースについては、年末までに結論を得るように政府内で検討が進められている。ただ、フェアユースは、最終的には裁判で決めなければならず、障害者個人と企業が争う形になるので、障害者福祉関係に適用するのは、違うのではないかとの意見もある。その点はいかかが。訴訟には費用がかかるので、米国のように、団体が個人を訴訟で支える仕組みなども必要になってくるのではないか。
- 放送協議会:
- もう少し限定的なフェアユースがあるのではないか。例えば著作権者が自ら録音図書を作らないなど、マーケットとして見捨てた部分がある場合、その部分の情報保障を行ったとすれば、著作権者が被った損害は少ないと考えられる。目的外に使われて損害があったとを証明できなければ、裁判では争えないので、むしろ、著作者が最初からユニバーサルデザインで著作物を発表するのを促進することにつながるのではないか。そのようなフェアユースの使い方を、日本政府もWIPOに提起してはどうか。
- 著作権課:
- 個別の権利制限規定ではなく、フェアユースを望むということか。
- 放送協議会:
- 両方が必要である。これまで検討されてきた事柄、特に中間まとめで提示されたことは、まず最優先で実現してほしい。諸外国並みのものは実現してほしい。一方、個別規定の積み重ねだと、障害種別などの制限から必ずから漏れる人が出てくる。その意味で、個別規定と、フェアユースが並行してあるのが有効と考える。
-
上記のような、著作権法の抜本的な見直し作業に当たっては、障害当事者をその作業メンバーとして加えたり、広く意見聴取を実施したり、意見交換の場を作ることで、障害者を取り巻く情報環境について十分に留意をした上で取り組むことが不可欠と考えるが、いかがか。
- 著作権課:
- 法律の立案に向けて当事者の意見を聞く場は大切である。ただ、法制問題小委員会は、権利者側も含まれておらず、直接の利害関係者は含めていない。委員の人選についてはさまざまなやりとりがあり、どのような形が望ましいか決めかねることもある。
- 放送協議会:
- どのような形であれ、当事者の意見を直接反映させてほしい。誰かを介しての間接話法では声が届かない。昨年度のような意見発表の場も、再び作っていただきたいし、障害者福祉関係に特化した議論の場があれば、そこに障害当事者は当然参加すべきと思う。
参加者一覧(順不同)
文化庁著作権課
文部科学省特別支援教育課
文部科学省教科書課
障害者放送協議会 著作権委員会
- 井上 芳郎 全国LD親の会 〔委員長〕
- 鈴木 孝幸 日本盲人会連合
- 有泉 一如 日本盲人会連合
- 河原 雅浩 全日本ろうあ連盟
- 多田 絵美子 全日本ろうあ連盟
- 川井 節夫 全日本難聴者・中途失聴者団体連合会
- 森本 行雄 聴力障害者情報文化センター
- 松下 幸恵 聴力障害者情報文化センター
- 中村 英治 きょうされん
- 大嶋 雄三 CS障害者放送統一機構
- 柴田 浩志 全国聴覚障害者情報提供施設協議会
- 河村 宏 国立身体障害者リハビリテーションセンター
- 佐藤 聖一 日本図書館協会(障害者サービス委員会)
- 野村 美佐子 日本障害者リハビリテーション協会
- 原田 潔 日本障害者リハビリテーション協会
<もどる>