災害時における放送・通信に関する要望書について

内閣総理大臣 野田 佳彦 様
内閣府特命担当大臣(防災担当) 中川 正春 様
<他、送付先一覧>

2012年5月9日

障害者放送協議会
代表 笹川 吉彦

緊急災害時における放送・通信に関する要望について

 平素より障害者福祉の向上につきまして格別のご高配を賜り厚く御礼申しあげます。東日本大震災における障害者に対する貴職の献身的な取り組みに関しましては、心より感謝申し上げるとともに敬意を表す次第です。
 さて、東日本大震災害から1年を過ぎ、緊急災害時における放送・通信のありかたにつきまして、議論をした結果、別紙のように要望書がまとまりましたので、その実現を求めたく、ここに要望いたします。

一、 緊急災害時における放送・通信に関する要望

 東日本大震災において、障害者からは次のような困難が報告されている。

 視覚障害者:○サイレンや放送を聞いても1人では逃げられない、○津波や火災時は介護者がいないと死につながる、○テレビ画面の文字が読めないので避難情報がわからなかった
 聴覚障害者:○防災無線が聞こえなかった、○誘導の声がわからない、○避難場所がわからなかった、○テレビの字幕・手話がなかったので避難情報がわからなかった
 精神障害者:○「突然」に弱いので、突然地震や津波が来ると幻聴がひどくなったりパニックになって固まってしまったりする、○どこに避難したらいいか、どうしたらいいのかもわからず逃げられない

 このような、困難を解消し、障害者が災害時に避難できるように、次のことを要望する。

1.東日本大震災における障害者の被災状況についての統計データを明らかにすること。
 今後の障害者の災害対策を検討するための基礎的データとして、障害者の被災者数、被災状況、死亡統計、震災における生死を分けた理由、具体的事例等について、内閣府、厚生労働省、警察庁が地方自治体協力のもと、国の責任として統計データ等を集計していただきたい。

2.災害に対する日常の対策について
(1)防災対策検討に必ず障害当事者を含むこと

 これまでの防災計画などでは、障害者対策が十分含まれてこなかった点を反省し、内閣府政策統括官(防災担当)の責任において、国や地方自治体の防災対策においては、必ず障害者についても配慮すること。また、そのために、政策決定過程に必ず障害当事者を参画させること。

(2)地域・施設における適切な避難訓練の実施
 以前から町や自治会の人と一緒に避難訓練を実施していたので、安全に避難することができた、事前に正確な知識や情報の共有をすることで避難ができたという報告もあり、地域・施設における避難訓練の実施が有効であることがわかった。これらの避難訓練を実施するような施策を実施していただきたい。

(3)適切な避難訓練用教材の作成
 避難訓練の実施に際して、障害の種別ごとに、アクセシブルで適切な訓練用教材を作成して提供する必要がある。特に、精神障害者、発達障害者については、避難の方法を学ぶとき、耳で聞いただけではわからなかったり、目で見ただけではわからないことがあるので、音、写真、文字などが同時に再生されるDAISY規格によるマルチメディア教材の効果があったことが報告されていることから、これらの適切な避難訓練教材を提供することをお願いしたい。

(4)障害者向け緊急情報受信システムの構築
「目で聴くテレビ」を全障害者対応として、日常的に視聴できる、している体制を作ることが大切である。緊急災害のある場合だけ放送するのでは、とっさの緊急災害に対応できない。いつでも、日常的に視聴していて初めて緊急災害放送となる。そのためにも、聴覚障害者情報受信装置を障害者情報受信装置として、聴覚障害者以外にも給付し日常の障害者関連情報を受信できるようにするとともに、後述のようにJ-ALEARTを活用し、字幕・解説・手話・点字により緊急時の放送・情報を送信・受信できるシステムを構築していただきたい。
また、後述のようにこの障害者向け情報受信装置を公共施設、とりわけ障害者が日常出入りする場所に設置し、障害者に必要な情報を保障していただきたい。
 当面、視覚障害者向けのテレビ音声を聞けるラジオを日常生活用具として指定するよう各市町村に働きかけていただきたい。

3.災害発生時について
(1)障害特性に応じた避難情報の確実な提供

 冒頭で述べた困難を解決するために、障害者向け緊急情報受信システムの活用により、災害発生時に避難情報が確実に伝わるシステムの構築をお願いしたい。例えば、携帯用の障害者向け情報受信装置の給付や避難場所での同装置の設置などをお願いしたい。

(2)J-ALERTの活用
 J-ALERT(全国瞬時警報システム)は、大規模災害や武力攻撃事態が発生した際に、通信衛星を利用して、瞬時に防災行政無線などを通じて住民へ緊急情報を伝達するシステムであるが、障害者に対する配慮がなされていない。このシステムを上の障害者向け情報受信装置の活用、振動やフラッシュなどで信号を伝える警報装置の開発などにより障害者の避難に利用できるよう改善していただきたい。

(3)コミュニティにおける人のネットワークのづくり
 障害者にとって避難時にはコミュニティにおける人の支援が必要である。2の避難訓練の実施と共に、地域の避難誘導体制(声かけ体制等)の整備をお願いしたい。また、ローカルFM放送局を設置し、防災無線の内容をFM放送により聴取できるシステムを全国的に整備していただきたい。

4.避難後について
(1)避難所での人的支援

 視覚障害者については、避難所にテレビがあっても、1台しかないテレビでは視覚障害者は近づくことができない。聞こえたとしても、「このスーパーが何日から開きます」とか、「こういう支援が始まります」という情報が、テロップで入るのでわからない。避難所に貼り紙がされて、これから弁当がもらえるというような随時必要な情報を読み上げて欲しいという課題がある。また、避難所のトイレまでの移動、トイレの形、水の流し方など教えてもらう必要がある。  聴覚障害者については、避難所生活の食料等、物資の配給等の放送がまったく聞こえず、それを得られなかった。また、周囲の人とのコミュニケーションができないために、そのような情報を得られなかったという課題があった。
 盲ろう者については、単独での行動は不可能である。
 精神障害者や発達障害者については、理解のしやすい、安心できる、具体的な情報を提供することが必要である。
 避難所でのこのような課題に対する人的支援について配慮できるよう緊急時の障害者のためのコーディネーター、視覚障害者のためのガイドヘルパー、聴覚障害者のための手話通訳者、要約筆記者等を配置できる日頃からの体制づくりをお願いしたい。

(2)安否確認のための個人情報提供について
 今回の震災では、個人情報保護法の制約の為に、障害者についての安否確認や行方不明の方の人数が把握できないということがあった。また、政府から緊急災害時は同法の制限が通知されたにも関わらず、末端自治体まで徹底していないということもあった。迅速に障害者の安否確認ができるような情報提供体制を構築していただきたい。

(3)避難地での放送通信情報の確保
 今回の震災では、視覚障害者、聴覚障害者に対して、テレビやラジオなどの震災情報は、命にかかわる問題であるにもかかわらず、十分な対応がなされなかった。
 例えば、震災2日後には、首相官邸における内閣官房長官の記者会見に、初めて手話がついたにもかかわらず、ニュースの画面では手話通訳が削除されるということがあった。記者会見にはオープン手話をかならずつけるようにお願いしたい。また、震災直後から首相官邸の記者会見には字幕放送がないままである。必要な情報が障害者に伝わるように、震災情報には、ローカル番組を含め、かならず、解説放送、字幕(オープン)、手話を挿入するよう制度化していただきたい。
 さらに、上述の障害者向け情報受信装置を活用し、障害者に緊急情報を提供するようにしていただきたい。その際、停電時にも同装置が動作するよう、バッテリーや給電装置等の確保をお願いしたい。

以上

[障害者放送協議会構成団体]
社会福祉法人日本身体障害者団体連合会(中央障害者社会参加推進センター)
社会福祉法人日本盲人会連合
社会福祉法人日本盲人社会福祉施設協議会
財団法人全日本ろうあ連盟
社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会
社会福祉法人聴力障害者情報文化センター
社会福祉法人全日本手をつなぐ育成会
財団法人日本知的障害者福祉協会
社団法人日本自閉症協会
全国社会就労センター協議会
きょうされん
特定非営利活動法人 日本障害者協議会
社会福祉法人全国社会福祉協議会
特定非営利活動法人全国要約筆記問題研究会
社会福祉法人 視覚障害者文化振興協会
特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会
特定非営利活動法人CS障害者放送統一機構
特定非営利活動法人 全国聴覚障害者情報提供施設協議会
特定非営利活動法人 支援技術開発機構
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

<他、送付先一覧>

総務大臣 川端 達夫 様

厚生労働大臣 小宮山 洋子 様

警察庁長官 片桐 裕 様

消防庁長官 久保 信保 様

一般社団法人 電波産業会 様


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